学生会館(がっかん)の灯り

 僕らはその建物を「学館」(がっかん)と呼んでいた。正式には「学生会館」と言う。1階はカフェテリアと大学生協の本部、書籍購買部があった。2階は会議室、小ホールなどがあって文化部やサークルなどが利用していたように思う。「学館」といえば主にその2階部分を指して言ったような気もするが、まあそれは細かいことだ。
 卒業してからも幾度となく学館を訪れては本を買ったり、食事をしたりしている。手の届く範囲の本や資料が揃う大学図書館を利用した帰りにホッと一息つくのもここだ。しかし、2階に足を踏み入れたのは大学卒業後数年経ったあたりまでだっただろう。卒業生でありながら勉強のために学内の勉強会に参加させていただいていた。用が無ければ足を踏み入れない場所だ。難しい本を読んでは至らぬこの先輩に学問を解説してくれていた後輩、行く場所も無かったのかひたすら話し込んでいた仲間たち。楽器の練習を熱心に繰り返していた学生たち。もう今はここにはおらず、知り合いも居ない。
 先日、大学に恩師を訪ねて行ったときも学館の2階に灯りがついていた。何らかの用事で学生たちがその場所で過ごしている。彼らはその時、学館の2階と時間を共有しているのだ。
 僕らはいちおうとある文化系のサークルのようなものに参加していて、その会合があるごとに学館の2階などを使っていた。あれは場所であり、時間を含めた空間であった。学館の2階には「学生時代」が詰まっている。大学時代の後半の濃密な時間をそこで過ごした。学館には「夢」があった。学生たちは漠然とした夢を持ち、卒業して行ったりキャンパスから去って行ったりした。何もかもうまくいくわけではないけれど、後悔していたって始まらない。学館の灯りを見て僕はキャンパスを離れていった。
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