勝間和代『読書進化論』(小学館101新書)を読んで

著者:勝間和代
書名:読書進化論 人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか
(小学館101新書、定価740円+税、2008年11月刊)


 この著者の名前を見たとき、「あああの、書店でよく平積みにされている本の著者か」ぐらいの認識であった。著者の執筆する分野が私には全く興味のない分野であり、縁が無さそうだと感じていたのであった。
 ところが本著のタイトルを刊行前に知り、俄然興味が沸いてきたのである。私の興味分野のストライクゾーンのど真ん中であり、読む価値はありそうだと直感的に悟ったのである。ほとんど先入観の無いまま、本を読み始めた。

 この本は大きく分けて以下のような要素で構成されている

1.著者の読書活動のスタイルの紹介(読書と「成功」を結びつける)
2.これからの書店(リアル書店、オンライン書店)のあり方の考察
3.本の売り方、売れる本の作り方
4.読者、Mixiのコミュニティ、ブログからのメッセージ
5.書店員が語る著者のこと
6.書店員による自店の紹介

 4と5は書店員が著者以外のことを語っている部分を除いて、そのほとんどが蛇足である。ファンレターを公開したところで、著者個人に特別の興味が無い場合、全く面白くない。経済評論家の読書論に興味があるのであって、過去の著書の感想文などは全く不要である。むしろ、著者の考えとは意見を異にする人々のコメントも載せるべきではないか。著書の中で著者を持ち上げる文ばかり載せていてはどうしようもない。本著の中で著者は何度も自著に関するブログや書評などの評価には目を通していると書いている。ならばいっそう、批判的な意見も載せる度量があってもいいではないか。

 経済評論家ということだけあって、本をめぐるお金の話は面白い。宣伝にかけるコストや、いかに無名時代から抜け出せたかなどはなかなか読ませる。ただ、そういう手段を取りうる類の本と、全く別方向から盛り上がる本があることについては言及が乏しい。著者の専門分野である「いかにしてお金を儲けるか」というジャンルの経済系の啓発書と、一般の文芸書や詩歌、その他の専門書では方法論が異なってくると、素人の読者としては思うのだ。啓発書やノウハウの開示のような本であれば著者の手法は有効であるが、読者を選ぶ本ではそうもいかない。これはある分野の本については全く該当しない手法であろう。

 さらに言えば、売れる本の質についてはどうだろうか。中身はそこそこでも、売れればいいのか。本とはそういう消耗品、単なる消費の対象でいいのかという疑問が残る。売れれば、すなわちいい本ではない。本の質の検証についてはほとんど触れられている箇所が無い。「男性作家だろうが、女性作家だろうが、売れれば評価されます。」(p.225)という記述が物語っている。売れればいい、と考える著者の本音が見える箇所である。昭和期以降のそれぞれの年代の「ベストセラー」がどれだけ人の心に残っているだろうか。瞬間的に大きく売れた本がその後長く人の心に残って何かしらの影響を与えているか、日本人の共有財産となっているかも考えるべきであろう。全く売れない本は何らかの原因があるだろうが、そこそこ世に出た本の方が、宣伝や時流に乗って爆発的に売れた本より内容的に優れていることもあり得る。あとから振り返って、「なんであの本を買ってしまったのだろう?」という本に当たらないためにも本について優れた観察眼を養うことが重要なのである。流行に敢えて乗らない、という選択肢もあるのが読書の世界だ。

 先に指摘すべき部分を書いたが、興味深い部分もある。たとえば、著者の読書スタイルの紹介である。こういう人はこういう本の読み方、本との接し方をするというのがわかる部分は実に興味深く読んだ。書店巡りをする中で、POP書きや営業をしていく手法などは大いに参考になる。また、著者の本に対する「愛」も伝わってくる。本の可能性がウェブ時代の現代では一層重要な役割を果たすことも終章で述べられていて、実に頷ける部分なのである。

 「リアル書店に足を運ぼう」という著者の呼びかけにも応じられない地域が日本全国には多いことも指摘しておく。東京の中規模の書店(地方においては大規模の部類だろう)をホームグラウンドにしていればわかりにくいだろうが、書店が無い地域も日本には多い。手にとって比較できるだけの満足な品揃えのある書店に行くには車で数時間かかる地域もあるのだ。そういった地方の小さな書店では「売れ筋」の本だけが書店の店頭に並ぶことになる。ウェブ書店がそれを補完しきれないのは、著者が指摘する通りである。ならば読者としては金を出して本を買う以上は販売戦略以前に質の高い、価値のある本の流通を望む。売り手の論理と買い手の論理はそこで食い違う。私などは凡庸な読者にして、普段読む読書の分野も極めて狭い。それでも、このような本を求めるのである。私の読書にかける思いは著者が終章で書いていることに共通する。だから一層、書き手には内容の充実を求めるのである。

 本を選ぶときには何を基準にするか。著者もそうであるように、ホームグラウンドにしている書店の自分の興味分野の本棚ならば端から端まで一通り内容を大まかにしっておき、その中から必要な本を選ぶ。それが無理な地域、環境では、新聞や雑誌の書評を頼りにする。残念ながらウェブ書店の★印は主観が前面に出すぎてあまり参考にはならない。書評家の確かな目にも期待する。決して提灯記事であってはいけない。それが無いと確信できる媒体の書評だけが納得に至らしめるのである。

 最後に、忘れてはならないのは公共図書館の活用である。この本ではほぼ「スルー」されている。眼中に入っていないようだ。「本の売り方」に主眼を置いているので、それは無理もないことだ。この本に公共図書館の利用の視点があれば著者の主張もより納得できたものになっていた可能性がある。購入して読む読書と借りて読む読書では質を異にする。「お金にならないからスルー」するのではなく、「お金を出してまで買う類の本ではないと判断する」という視点もあることを、本の売り手は考えるべきであろう。公共図書館のヘビーユーザーでも、本を買うときは買うのだ。公共図書館の利用者もまた購入層なのである。

 読み進めていくうちに上記のように自分の読書のあり方も考えさせてくれる、実に興味深く読める本であった。今年の秋以降に読んだ本のうちでは、知的好奇心を刺激してくれた数少ない本の一冊である。新書判でもあり、読みやすかった。今後この著者の本を手に取るとすればまた、興味分野のストライクゾーンに入ってきた時になるだろうが、その機会を楽しみにしている。

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